Switzerland 

 

幼い頃、『アルプスの少女ハイジ』にハマり込んでいた私。『今日から私の事、山田ハイジって呼んでね』と親に懇願したという恥ずかしいエピソードがある程。だからこの国、やっぱり血が騒いでしまう。

 最初は93年の夏にパリに住む友達家族に車で連れて行って頂いた時。どうしてスイスの山々はこんなに真っ青なんだろうと感動。どこを見渡しても超大自然!ハイジでよく登場していたマッターホルンやモンブランも、クライン・マッターホルンの山頂展望台から間近で本物を見る事が出来て感動の嵐だった。ただ愚かにも、真夏の恰好、半袖短パンで何も考えず一気にリフトで上がった為氷点下の頂上では凍えた(笑)。夏スキーを8月のアルプスで♪なんてのも上手な方にはオツですよね。。

 

 ツェルマットをのんびりした後は、田舎をグルッとドライブして大都市ジュネーヴ(これは余りにスイスらしくない)に寄りながらのスイスデビューの旅。ジュネーヴでは美術歴史博物館や古楽器博物館、ルノアールやピカソ等の現代の巨匠の作品が並ぶプチ・パレという建物自体もとってもお洒落な美術館を訪れた。帰りのスイス、フランスの国境付近で世界一高くて美味しいと言われる牛を沢山見る(まだ、牛の姿)。真っ白い姿が特徴で先入観からか高貴な牛に映った。

 スイスに行って驚く事は物価の高さ。世界の銀行が集まるリッチな国だから??マッターホルン等のロープウェイも確か行って帰って往復1万円位。あんな高い所まで苦労無しにすぐ連れて行ってくれるのだから有難い事だけど。。

 次に訪れたのは97年8月末、大学生最後の夏休み。今回はチューリッヒに飛行機で入り、そこからスイスパスを使って電車での旅。因みに英語ではチューリッヒの事をズーリックと呼ぶ。何かイメージ悪〜い。そのズーリックから今回のお目当て、ユングフラウに向かう途中、ラウターブルンネンに寄る。嘘でしょ?って程、まるでペンキを流したみたいな水色をしたアーレ川が見られるインターラーケンより登山電車に乗り換える。ラウターブルンネンはヨーロッパ第2位の落差を持つシュタウプバッハの滝がある村だ。もう1つの名物、トゥリュンメルバッハの氷河融水の滝やらを見てみたくて駅から1時間ほどのハイキング。ガイドブックを読んだらびしょ濡れになる為、雨ガッパ持参と書いてあり慌てて空港で購入したのだが、確かに買って正解。この難しい名前の滝、言葉で表現するのがとっても難しいのだが、いわゆる地中の滝=Bアイガーやユングフラウにかけて存在する多くの氷河から溶けた水が一斉にこの村の方面に流れ込み、その膨大な量が岩の隙間を浸食して、現在の姿となったらしい。入り口から既にしぶきが霧のように漂っていたが、エレベーターと階段で進んで行くと凄まじい迫力。毎秒20トンもの水が狭い岩山の間を渦巻いて落下していた。カメラにも収まらない規模で見ていると吸い込まれそうになる。大自然のパワーってすごい!洞窟好きとしては心に残る奇観だった。

 

 全くの余談だが、職業病なのか?毎日、ふと朝、音楽なりメロディーが頭の中で流れ、その1曲がその日のテーマミュージックとして寝るまで追いかけてくる。時々、何でこの曲なの!?って物もある訳で、しかし一度流れたモノはその日変更する事は出来ない。スイス滞在時のテーマ曲は勿論ハイジ。しかも日によってオープニングだったりエンディングだったり(笑)。スイス⇒ハイジ⇒ハイジの曲ってのも何て単純な連結だろうと思いつつも、歌詞も定かではないこの曲をルンルンと鼻歌まじりにアルプスの美味しい空気を一杯吸ってハイキング出来る幸せったら(笑)

 再び登山電車に乗ってヴェンゲンへ。クライネシャイデックに行く途中に20分ほど下車してみた。もう、かなり山を登った。登れば登るほどスイスらしくなる。山と山に挟まれ下〜〜の方に見える、モヤの掛かった小さな先程のラウターブルンネンの村が美しかった。

 今日の電車の旅はクライネシャイデックにて終了。この村のシンボルの様な100年以上経つ山小屋風のホテルに宿泊。このホテルともう数件の建物以外は何も無い、静かな村。静まり返った夜に、時々雷かと思うスノーシャワーの轟音が響き渡る。翌朝、まだ日の出前に早起きの苦手な身に鞭を打って外に出てみる。すぐ横にはアイガー、メンヒ、ユングフラウの三山がそびえる。小さな木製の展望台からアルプスの日の出を見た。どこまでも澄んだ空と空気。同じく早起きのヤギ、ゆきちゃんも(勝手に命名)悠々と散歩していた。

 朝食を手早く済ませて、長袖を着込み、いざユングフラウへ!ホテル前よりユングフラウ鉄道に乗り込む。1車両、妙にキャンキャンと騒がしい車両があるなぁと思ったら、朝一のこの電車で共にユングフラウに行く御出勤途中の犬ぞりのワンちゃん達だった。この登山鉄道、ヨーロッパで最も高い駅、3454mまで長いトンネルを登って行く。よくぞ、こんな所に作ったものだと溜息が出てしまう程の急斜。終点に辿り着き、扉が開いた途端、冷気が流れ込む。外に出るとそこは一面まばゆい銀世界。青い空が紺色に見えるほどアルプスの山々は白く輝いていた。マッターホルンの教訓で暖かい服を着込んで大正解♪目の前にはアイガー、メンヒ、ユングフラウのベルナー・オーバラント三山、それにアレッチ氷河が広がり圧倒させられる。

夏スキーを楽しむ人も多く居たが、先程一緒に登ったワンちゃん達の犬ソリコーナーを発見。元々、何となく動物虐待の様なイメージが有ったのだが、実際彼らを見てびっくり。走りたくて走りたくて、その場を飛び跳ねながらGOサインが出るのを待ちに待っていた。余りに嬉しそうな姿だったので記念に乗ってみた。驚くほどのスピードでなかなかのスリル。張り切って雪の大地を蹴る後ろ足から飛ぶ氷を顔にバシバシ浴びて痛いのなんの(苦笑)。意外に楽しい経験だった。壮大な景色を満喫しながら手紙を書き、ヨーロッパ最高所の郵便局より投函。氷河の中に作られたアイスパレスでの氷の彫刻等もゆっくり見てまわった。

      

アレッチ氷河を目に焼き付けて、再び登山鉄道で下山。途中、アイガーグレッチャ−も見ながらグリンデルワルトへ。この町、日本人に大人気らしい。至る所で日本語にお目に掛かる。長野の安曇村とも姉妹都市とか。スイスでの宿泊はここ1泊にて最後。思いっきりスイスらしい、花一杯のログハウスを探してみた。

木の香りのする可愛い部屋に荷物を置き、いざ、アルプス・ハイキングへ♪この私、普段は一切運動をしない。ピアノもある意味かなりの運動量だが、腕や指、背筋は鍛えられるものの、足やお腹は日常生活で使う事が滅多に無い。歩くのも余り好きではないし、ハイキング出来るかしら・・・と一抹の不安を抱えながら出発。ハイキングコースの中でも初心者コースを選択してみた。グリンデルワルトよりゴンドラリフトに揺られる事20分、2171mのフィルストに到着する。さすが、一気に肌寒くなる。このリフトの終点からの眺めだけでも十分最高に美しかったが、ここまで来たのだから予定通り片道1時間コースのバッハアルプゼーへ。最初のうちはゼィゼィ。。と息の切れる坂道だったけれど、次第に緩やかな道となる。高山植物やチョロチョロ流れる小川、牛や雄大な山々を見ながらだと空気も美味しいし、意外に楽しく歩けた。感心するのはゴミが一つも落ちていなかった事。皆のこの景色への感動がそうさせているんだろうなと実感。途中の一休みで先程のフィルストの売店で買って来たお水とシンプルなチーズとハムが挟まれたコッペパンの様な物を取り出し、山を見ながらランチ。これが笑っちゃう程美味しかった!普段食べたら大した事無いんでしょうけどね(笑)

目的地バッハアルプゼーに到着。フィルストよりやや高く2265m。はっとする美しさの山上の穏やかな湖が広がり、その後ろにはシュレックホルン等4000m級の山々がばっちり。放牧されている牛達(観光客慣れかビクともしない。)も何とも絵になる。実にスイスらしい光景ばかり。時々小さな山小屋を見かける。ハイジ狂いだった幼稚園の頃、スイスへ出張する父に『ハイジに会って来て』と頼んだ事がある。スイスから届いた山小屋の写真の絵葉書には『ハイジはもうおばさんになっちゃって会えなかったよ。でも、この山小屋はペーターのおうちだよ。歯をちゃんと磨いて良い子でね』と全てひらがなで書かれていた。私の父らしいコメントだが、スイスで質素な山小屋を見るとあの葉書を思い出してホットになる。ハイジファンとしては、ハイジの舞台、マイエンフェルトにも行かなくてはなりませんねぇ。

ゆったりとした後は再び1時間テクテク。素晴らしい天気と大自然の中でのハイキングは思ったより大変でなく、楽しいものだった。ただ、この素人ハイカーの大失敗、それは何も考えずテニスシューズを履いて来た事。とっても履き慣れた柔らかい靴だったので、これなら沢山歩ける♪と共にスイスに来たものの、フィルストに戻る直前、ん??と思い足を見たら靴底に穴が空いていた!!痛い筈(苦笑)。スイスで歩き回るには、やっぱり登山靴なんでしょね。

    

夜はスイス料理を食べに美味しそうなレストラン選び。勿論、チーズフォンデュ。それにミートフォンデュも食べてみる。こちらはサイコロ状の牛肉を串に刺し、ホウロウ鍋でグツグツ煮立っているオイルで揚げて色々な薬味を付けながら食べるもの。どちらも◎スイス料理は、シンプルな素材重視の物が多く、余り凝った繊細な料理は無い模様。

その夜のもう1つのお楽しみ。それは先程のプチホテルのベランダから見る星空。今日の天気なら期待大と町の電気がすっかり消える夜中まで頑張って待ってみた。街灯も殆んど無く、町は真っ暗。夏と言うのに気温もグンと落ち吐く息は真っ白。そんな静まり返った町の空をベランダからそっと見上げた。うわあぁぁ〜〜っと吸い込まれそうな程の満点の星空。黒い空の部分が消されるように小さな無数の星が輝いていた。天の川を生まれて初めてはっきりと見て感動!首が凝って身体が冷え切るまでボ〜っと見とれていた。

翌朝、ルンルンと準備♪今日は最終日。旅のハイライト、憧れの氷河急行乗車の為、電車を乗り継ぎマイリンゲンまで行く。マイリンゲンよりバスで峠越えをし駅のあるレアルプより氷河急行乗り換え。峠越えでは、人間業では到底無理で、悪魔の手で作らせたと伝説の残る悪魔の橋や数々の氷河、氷河急行では斜めに傾いたグラスをお土産で買って、美しい景色を見ながら優雅にランチ・・・♪なんて本っ当〜に楽しみにしていた。ここで大事件発生!マイリンゲンのバスステーションにて、予定していたバスが全く時刻が違う事が判明。。あの『世界の時刻表、Thomas Cook』が時間を間違えていたのだ(号泣)。信じ込んで綿密にスケジュールを組み、氷河急行の1等席まで予約済みだったのにぃぃ。。他のルートも考えてみたものの予約していた物には間に合わないし、もし乗れたとしても今度は帰りの飛行機がやばい。こんなに悔しい思いをした旅行も珍しく、やっぱり未だに峠越え&氷河急行は体験してみたい。

夢がもろくも崩れ去り、もう半分投げやり。でも折角の大好きなスイスの旅。もう一度ルートを立て直し、ブリエンツの蒸気機関車に乗る事にした。おもちゃみたいな真っ赤な可愛い蒸気機関車がせっせと2298mのロートホルンまで連れて行ってくれる。真っ青なブリエンツ湖が遠く下に見え絵葉書の世界だった。やや?ご機嫌回復・・・チューリッヒ空港に向かう途中、ルツェルンにも寄ってみた。そうそう、スイスって凄くチョコレートが美味しい=ココアが美味しいんですね♪スーパーでココアをどっさり買っちゃいました。

     

帰りの飛行機に搭乗。フライト前に新聞が配られる。1面に目を通してギョッとした。昨夜パリでダイアナ妃が事故死したとの記事。今日1日、ニュースエージェントの看板や、新聞を読んでいるおじさん達の、“ダイアナ、死”と言う単語が気になっていた。ドイツ語はさっぱりだしダイアナの周りで誰か亡くなったのかな程度に考えて、まさか本人の死なんて想像もしなかった。ダイアナ妃は大学のプリンシパル、日本で言う学長?だったので何度か実物を間近で拝む事も有ったし、年によってはダイアナ妃自ら卒業証書を手渡してくれ、やはり憧れのプリンセスだった。飛び切りの美しさにプラス、あか抜けたセンス、眩しいほどのオーラを漂わせた人だった。でも美しさの中に寂しい表情がいつも見られた。英国はとても偉大な人を失ったけれど、本当の恋愛が出来て好きな人と死ねたのなら、プリンセスにとっては幸せだったのかな。。

どんよりと暗〜いロンドンに到着。ケンジントンパレスやハロッズには花束やメッセージが山積みにされ、新聞、雑誌、テレビもダイアナ一色。こんなに全国民に哀しまれる人も珍しいと思う。スイス旅行は最高に楽しかった(時刻表事件以外・・・)。でも、この飛行機内で知った事件へのショックも、かなりのもので、以後セットとなって思い出される。皆に注目されて、追いかけられ、気の休まる時なんて皆無だった筈。安らかに眠って欲しいな・・・。

・・・で、次回は峠を越えて氷河急行に乗り、ハイジの村をハイキングするぞっと!!